「正直なことを言うと、不安が大きくなっていますね」
 12・31『Dynamite!!』の開催日が刻一刻と迫っていることについて訊くと、所英男は節目がちにそう答えた。つねづね「『Dynamite!!』に出場したいです」とアピールしていた所だが、さすがに大阪ドームという大舞台では緊張するのだろうか?
「それもありますけど、強い人とやるっていうのは、やっぱり怖いですよね」
 所が「強い人」と語る対戦相手の永田克彦は、シドニー五輪レスリングで銀メダルを獲得したのを始め、数多くの大会で優勝をさらっている超一流のアスリートだ。
 実際、永田がシドニー五輪で準優勝した当時を、所はよく記憶しているという。

「すごい人だなっていう感じはありました。お兄さんが新日本プロレスの永田(裕志)選手ということもあって、すごい兄弟だなと思っていましたね」
 その頃の所は、すでに格闘技をやっていたもののプロデビューはしていない。いつの日か格闘技の世界でヒーローになることを夢見ていた“雑草”と、ヒーローとして日本中の賞賛を集めていた“エリート”。差は歴然だった。だが、雑草は這い上がる。今年7月にアレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラを破って大ブレイクを果たし、『Dynamite!!』での永田戦を実現させたのだ。そんな今、所は雑草と呼ばれることをどう受け止めているのか。

「いや、僕は雑草のままだと思うので(笑)。異論を挟む余地はありません。でもエリートとは言っても、一から頑張ってきた人なんで。雑草もそこからスタートしてるんで、みんな一緒だと思います」
 大輪を咲かせているエリートも、人に踏みつけられながらたくましく成長する雑草も、根っ子は変わらない。自分も花を咲かせた実感があるから、所は自信を持ってそう断言したのだろう。雑草と呼ばれた男が五輪メダリストと肩を並べ、そして追い越す。そんな光景も決して夢物語ではない。
 ただし視点を永田に置き換えた場合、この一戦は総合のキャリアが豊富なトップ選手に、違う分野から乗り込んできた新人が勝負を挑むという構図にもなる。だが、所に油断や慢心はない。永田対策をみっちりと行ない、わずかに残る不安を打ち消しているという。

「今は打撃の防御をしています。あの体なんで、一発もらったらおしまい。体重差もありますし。もらわないようにすれば、勝つチャンスはすごく増えると思います。あとは、受け身の練習もしようと思っているんです。冗談抜きでスープレックスとかすごいと思うんで、受け身が取れないとその時点で試合が終わっちゃいますから」
 75kgという契約体重は、通常67kgの所にはかなり厳しい条件といえる。しかも相手の永田は、80kg近いところから絞り込んでくる。前日計量ということを踏まえると、おそらく試合当日には10kg近いハンディを背負って闘わなければいけないだろう。それだけの体重差があれば、パンチも投げも全てが致命傷になりかねない。だからこそ、所は勝利を手繰り寄せるために、準備を万端に整えている。
 その極めつけが、前田日明HERO’Sスーパーバイザーから受けたアドバイスを取り入れた練習だ。具体的な内容は明かせないと前置きしつつ、「前田さんに前々から同じことをずっと言われていて、それが完成してキッチリできるようになれば、勝つチャンスは広がります」と、その練習には抜群の効果があることを説明した。まだアドバイスを受けた技術は完成していないようだが、本番に強い所のことだ。誰もが驚くような、劇的な勝利を収めるかもしれない。
「思いっきりぶつかって、今年最後を最高の試合で締めくくりたいと思います」
そう語る所に、もはや不安や迷いは感じられない。シンデレラボーイは、有終の美を飾れるのか? 彼の2005年ラストマッチを見逃すな!■


いつも大会で一番面白い試合をすることを心がけている所は、永田との対戦について「面白い試合をするのに、ふさわしい相手。実績からネームバリューから、申し分ないです」とコメント

所は過去にリトアニアのレスラーと2戦している。1試合は判定で、もう1試合は一本勝ち。トップレスラーとはいえ、所は永田に苦手意識を持ったりはしていないようだ

少年時代の所は、プロ野球選手になることを夢見ていたという。『Dynamite!!』で試合をすることについて聞くと、「野球場で闘えるっていうのは、すごくうれしいです」と白い歯を浮かべた




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