3月7日、K-1オフィシャルジム／『Sammy Presents HERO'S 2006』（3月15日、日本武道館）須藤元気、公開練習

　まさしく、須藤元気ならではの発想だ。
「今回は、独創性をより求めた試合をやっていきたいですね。今までと違った一面を見せるつもりです。格闘技自体をぶっ壊したいと思っているんですよ」

　過激な表現を交え、彼は3・15『HERO'S』の意気込みを語った。格闘技をぶち壊す。じつに謎めいた発言だ。その意味を、須藤は公開練習に集まった報道陣に向けてハッキリとした口調で説明していった。
「僕は破壊から創造を生み出したい。デビュー当時から、入場パフォーマンスやトリッキーなスタイルをやってきたので。もう一つ、新たに一皮剥けた試合、表現方法を見せたいんです。漫画とかゲームを超越するような格闘技を。やっていることは真剣なんですけど、そのなかにそういった要素を取り入れたい。格闘技を見る人というのは、非日常を求めて会場にやって来ると思うんです。僕はその非日常のなかでさらに非現実を出して、みなさんに元気を与えたり喜んでもらいたいんです。もっと言えば、格闘技に興味のない人が見ても“おおっ！”と言うような闘い方を見せますよ」

　ド派手な入場パフォーマンスや予想もつかない動きで独特の世界観を築き上げている須藤は、“トリックスター”といった異名とともに賞賛の声を集めている。現時点でも、彼は十分すぎるほど“非現実”を表現しているようにも思える。だが今回は、そこからさらにもう一歩踏み込んだ世界観を見せるという。フィクションをもはるかに上回るような、非現実の世界を。そのキッカケの一つは、今回闘うオーレ・ローセンにある。
「彼はヨーロッパの『スーパーリーグ』で活躍しているし、ブラジリアン柔術もやっているという話を聞きました。試合を見て、堅いタイプだと思ったんです。だからこっちは、より柔らかくなろうと。柔軟に、水のような動きをするつもりです」

　それが須藤の決断だ。そしてもう一つ、須藤を後押しするものがある。ともに練習を積む、周囲の人間の存在だ。
「今は木口（宣昭。木口道場会長）先生とレスリングの練習を、木山（和慶＝空手家）君と空手の練習をしています。二人とも天才なんですけど、偏ったタイプの人なんですよ。突き抜けた人というのは、どこか普通じゃない。最近は、そんな偏った人たちの人間性に興味があるんですよ。彼らに対して反面教師的な部分もあるんですけど（笑）、あるがままに、人の目を気にせずに生きるのもありかなと思ったんです」

　自分が持っている芸術性を、存分に試合で発揮する。天才肌の二人の姿を見て、須藤は無意識に嵌めていたリミッターを外すことを意識したのだろう。現時点でも常人の予想を上回る須藤の本領が、もしも発揮されたなら…。それが格闘技の枠に収まりきらないのも、当然だろう。

　公開練習では、須藤はレスリングと空手のスパーリングをそれぞれ3分ずつ行なった。得意の回転系のトリッキーな技は出したが、彼の新境地はまだまだ厚いベールに覆われている。その正体が気になるところだが、木口会長は須藤と二人きりで練習している際に、その一端をいくつか垣間見たという。
「“先生、こういう技を身につけたよ”と、彼が二人きりの時にそれを見せてくれるんですよ。思わず“すごいなぁ”と、溜息が出ましたよ」

　ほんのわずかに触れただけで、須藤の新境地は心奪われてしまうようなものらしい。こうなってくると、もはや予測は完全に不可能だ。分かっていることは、ただ一つ。3月15日、格闘技の常識は破壊される。あっと驚く元気箱から、今度はどんな宝物が出てくるのだろうか。■

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須藤元気：プロフィール