「8月5日のHERO'Sは、山本“KID”徳郁選手がレスリングで2008年の北京オリンピックを目指すことになりましたので、欠場となります」
 谷川貞治FEG代表は、衝撃の発表をした。KIDといえば、現HERO'Sミドル級世界王者。まさに今は、ミドル級トーナメント開催の真っ最中で、当然のことながら、ディフェンディング王者のKIDと準優勝の須藤元気はシード扱いとなっていた。

 だが、須藤は首のヘルニアが再発し、総合格闘技の試合をするのは困難とみなされ、今回は見送りが決定。それだけではなく、KIDもレスリングで日本代表、そして2年後の北京五輪でのメダル獲得を目指して、HERO'Sへの出場はしばらく未定となった。
「主催者としては複雑な心境ですが、HERO'Sの王者となって、これから名声と収入を得ていくそういう時期に、あえて困難な道を選ぶのは、男として格闘家としてもカッコいい。やるからには、日本代表となって、北京でメダルを獲ってもらいたいですね。全面的に応援していきますし、北京まで行きたいくらいです」と谷川代表。前田日明スーパーバイザーも「思いがけずKID選手が、オリンピック挑戦の表明をしましたけど、今までに見たことがない凄い奴ですね。出来る限りのサポートをしていきたい」とKIDの決意を支援した。

 HERO'S参戦が未定というのは、プロの活動をしながら、レスリングで日本代表になることが、ひじょうに難しいからだ。レスリング日本代表になるための関門は、2006年11月に開催される全日本選手権(天皇杯)予選会からスタートする。ここで優勝するか、コーチ委員会の推薦があれば、翌年の1月26日〜28日に東京・駒沢体育館で行われる全日本選手権(天皇杯)へのエントリーが決まる。そして、ここで優勝しなければならない。もしも負けてしまっても、全日本選抜選手権(07年6月=駒沢体育館)で優勝すれば、プレーオフに持ち込める。そして、プレーオフで勝てば、今度は世界選手権(07年9月18日〜23日)が待っている。じつは、ここからが本番で、上位8カ国に残らなければ、この階級の日本の出場は消える。また上位3位に入れば、日本が出場国になるばかりか、代表選手に選ばれることとなる。

 じつは、この先もまだあるのだが、ここでは割愛させてもらうとして、これだけでもKIDがいかに困難な道を選択したかが、分かってもらえることだろう。では、なぜKIDがあえてオリンピックを目指すことになったのか、本人が説明した。
「今、俺は29歳で、これが最後のチャンス。2カ月くらい前から考えていて、トライしなきゃ悔いが残ると思ったから、レスリングでオリンピックを目指すことに決めました。これから1年くらいは、HERO'Sに出られないかもしれませんが、レスリングでオリンピックに行くというKIDも応援してくれたら嬉しいですね」

 格闘技の神の子は、正直な気持ちを語った。KIDのオリンピックへの思いは、子供の頃から持っていたという。それは、父・郁榮氏がレスリング日本代表としてミュンヘン五輪に出場し、勝っていた試合を負けにされたことが、頭にあったからだ。姉の美憂、妹の聖子も、父親の思いを晴らすために、レスリング日本代表を目指した経緯がある。KIDは「俺が総合格闘技を始めたのは24歳のとき。まだ若かったから、プロで試合をしながらでも、オリンピックを目指せると思っていた。でも、そんなに甘いものじゃない。それに、オリンピックを目指しながら、HERO'Sで試合をするのも失礼なこと。中途半端は、嫌いだから」と打ち明ける。この言葉からもKIDの決意が本物だということが分かってもらえるだろう。

 気になるのは、KIDにどこまでレスリングでの可能性があるか、ということ。レスリング協会の高田裕司・専務理事は、次のように説明する。
「彼が出るのは、60kgのフリースタイル。この階級はアテネ五輪では、銅メダルを獲得しています。現在、学生が全日本チャンピオンです。今のKIDではベスト8くらいのレベル。ここから上り詰めるのは、あとは練習と経験でしょうね。ただ、ルールが3分から2分に変更したのはKIDにとって有利になるでしょう。瞬発力、タックルのスピードは優れていますから」

 今後は、母校である山梨学院大学でレスリングの練習に専念する予定。谷川代表は、「できれば、大晦日の『Dynamite!!』には出てほしい」と妥協案をぶつけると、「だったら、妹(聖子)とレスリングで闘う」と笑うKID。大晦日の出場はともかく、ぜひともレスリングの日本代表、そしてオリンピックで金メダリストになってもらいたい。しばらくHERO'Sで試合が見られなくなるのは寂しいが、ここは一つ、KIDを応援しようじゃないか!!■

>>『Sammy Presents HERO'S 2006 ミドル&ライトヘビー級世界最強王者決定トーナメント準々決勝』実施概要

レスリングに専念することになったKID。我々も変わらずに応援するぞ!

勝算を訊かれたKIDは、「やってみないと分かんないし、自信がなかったらトライしない。やりたいからやるのが、俺の人生。これからのことなんて、考えていない」と力強く語った。カッコいいぞ

山梨学院大学でKIDを教えていた高田裕司・専務理事は「レスリングをやれば、さらにバージョンアップしたKIDが見られるでしょう」と、プロに戻ってきてからも強くなっていることについて、太鼓判をおす


高田専務理事、KID、谷川代表の3人が握手。みんなの団結が、KIDを金メダリストに押し上げるかもしれない

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