――初めての総合格闘技。会見でお聞きしましたが、3年前にヴァンダレイ・シウバ選手との対戦を打診され、断らざるを得なかった悔しさから、練習をしてきたようですね。
金 それはありましたね。1週間前にシウバ選手と闘わないか、と言われて。でも準備が出来ていない、というのがあってお断りしたんです。
――金選手のイメージからすると、それでも闘うと言いそうなのですが。
金 そうですね。これは大丈夫、と思えたらいけたんですけど。正直、色々な理由があるんですけど、言い訳になるんで。ただ、闘えなかった自分が悔しいですね。
――武道家として悔しい、と。
金 男として、やっぱり。この業界にいて、この世界にいて悔しかったですね。そのあと、「分かりました。よし、やろう」という気持ちになってきて。でも、もう決まってたんです。中途半端に迷ったな、と思いましたね。
――躊躇してしまった自分が許せない、ということですか。
金 闘えるのなら、最初から行けばよかったし、躊躇して後から行くと決めたのならば、言わなければ良かったな、と。その一瞬の躊躇ですよね。それがここ、3〜4年の中では1番悔しかったですね。迷うのは嫌いなんですけど、予想以上のものが来たんですよ。正道会館は、そういった話が結構あるんですけど、その2、3個上のレベルの話が来たので。理由は色々あるんですけど…とにかく悔しいですね。
――仮に試合をしていたら。
金 いや、勝てなかったと思いますよ。あの準備では勝てないし、自分はいいですけど、相手のシウバ選手に申し訳ないですよね。自分でしっかり準備して、やるのが礼儀だと思うんで。石井総師が言われたことなんですけど、「武道家はいつも準備をしておきなさい」と。いつ言われても闘えるように、何かがあって準備するのではない、という教えのまさしくポイントにハマってしまったな、と思いましたね。反省しました。一般の社会では、なんだその教えは、とか言えるかも知れないですけど、僕は的を射ていると思うんですよ。その準備をしていなかった自分が情けない。

――今大会が総合格闘技デビューになるわけですが、金選手からすると総合格闘家という意識なのでしょうか、または武道家・空手家という意識なのでしょうか。
金 空手家ですね。自分がここまで来たのは、来れたのは空手をやっていたからですし、もし空手に出会えていなかったら、おそらくこういった方向には進んでいなかったのではないかな、と思うんですね。空手に礼儀を教えてもらいましたし、相手に対する敬意も習えました。空手に出会っていなかったら、これらが薄かったと思うんですよ、正直な話。街で喧嘩をして捕まったかもしれない。それで発散していたかもしれないし、力も変にあったので我慢が出来なかったかもしれないですね。空手には、本当に感謝していますよ。やっぱり急に試合が決まって、大変だなと思われますけど、それを楽しく考えようかなと。悪いことを考えたらきりがないですけど、悪いこと1つ考えたらいいこと1つ考えないと、楽しくなれないじゃないですか、自分が。まして、応援してくれるファンの方がいらっしゃいますしね。それだったら、自分が頑張ればレールがあるので。そのレールが空手で見つけた、教えられたものですから、後は走るだけなんで。レールさえ見つけるのが、今の時代難しいじゃないですか。ちゃんとレールを敷いてくれる先輩方がいてくださったことに関しては幸運だったな、と。正道会館という空手に出会えてよかったな、と思います。

――K-1に出ているときも空手家としての意識は強かったのでしょうか。
金 正直22歳〜24歳位までは重かったんですよ、空手を背負っているのがとても辛くて。いい方向に捉えられなくて、空手家なのに負けたらどうしよう、格好悪いとかそういう一点だけで、プロだからしょうがないんですけどね。昔は空手と仲良く付き合うことが出来なかったんですね。どちらかというとなんで空手をしているだけで、人からこう思われるんだろう、とかすごい重かったんですね。変にちゃんとしないといけない、とか思っていました。一般の人に言っても絶対、理解してもらえない部分だと思うんですね。でもそれはしょうがないですし、一般の方が空手をやってみたら「あっ」と思えるかもしれません。
――今のタイミングなら手応えを持って試合に臨む、と判断してもいいのでしょうか。
金 そうですね。全くなかったらまた断っていたと思います。それにやっぱり空手家の誰かがしないと、誰かが踏み込まないと。お互いに行けと言い合っていても終わってしまうので。正直、不安は山ほどありますけどね。年齢的なことや、言い出したらきりがないんですよね。勝てるのか負けるのかどうなるかも分からないですし。自分のなかではイメージできるんですよ、試合のなかでこれができたら勝つ、できなければ負ける、というのはあるんです。でも専門家の人もどんな試合になるのか、想像できないと思います。だから、そういった部分では僕も楽しみです。多分、今までにないテンパった自分がいるんじゃないかな、テンパる金泰泳がいますよ(笑)。

――試合では、よくキレていたイメージがありますが。
金 あれは冷静にキレているんです。計算ではないんですけど。キレているんですけど、どっかで30分の1くらいは冷静なんですよ。キレていてもこの形だったら危ないとかあるんで、止められるんですよね。このバランスって難しいじゃないですか。アクセルを全開にするんですけど、その一方でブレーキも踏む。アクセル全開で行ったほうが楽なんです、我慢しないほうが。やらなくてはならないこと、やってはいけないことをテーマ決められているなかで、我慢しないほうがね。
――今回はアクセル全開で行ってしまうかもしれない、ということですか。
金 テンパるんで、自分でもどうなるか分からないですね。未知の部分ですから、そこが怖いですね。ブレーキを踏めないかもしれない、どうなるか分からない、それって面白くないですか。でも、ここを冷静に分かっておかないと、もっとテンパる。正直、ヘビー級なら、勝負どころも分かるし、経験で分かるんですけど、今回はそれがないわけですよ。大事なポイントですけどね。(攻撃を)当てたらいい、というのはあるんで、どうやったら当たるのか、どうやったら当たらないのかというのが分かっていれば大丈夫ですね。

――打撃で勝ちたいですか、寝技で勝ちたいですか。
金 寝技で取れそうでも僕は取りません、取れませんし。もし万が一、僕がたまたま寝技で取れたとしたら怒ってください。何やってんだ、今回のテーマは空手家だろう、と。
――立ちの打撃、パウンドの打撃でKOということですか。
金 パウンドはしないです。くっついたら相手、楽でしょう。あんまりしないです。

――では最後に、ファンにメッセージをお願いします。
金 ご無沙汰しております。正道会館の金泰泳です。総合での始めての試合になるんですけど、一生懸命頑張ってファンの皆様に楽しんでもらえるように、ちょっと今テンパってますのでそれしか言えませんけど。試合を観て、ご意見お待ちしています。よろしくお願いします。■



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>>金泰泳 プロフィール
金は昔からハートが強いことで有名。総合格闘技でも、その気の強さが結果を出すのではないかと期待されている


秋山に打撃のテクニックを教えたことがある金だが、容赦なく潰しにいくことだろう
金が勝つとすれば打撃。空手の技が秋山に炸裂するのか!?


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