山本“KID”徳郁の北京五輪挑戦、レスリングに専念の話題が渦巻くなか、静かに闘志をみなぎらせているファイターがいる。それが、宮田和幸だ。もともと彼は、レスリング日本代表としてシドニー五輪に出場した実績がある。アテネ五輪には出場できなかったものの、鳴り物入りでプロへの道、HERO'Sの舞台へ進んだことは記憶に新しい。 そんな宮田も、KIDと同じように1月26日から28日まで都内の駒沢体育館で開催される『天皇杯レスリング全日本選手権大会』にエントリーしたという。
■「えっ!? お前も出るの!?」
さっそく母校の日大で練習している宮田に突撃取材を敢行。「じつは今年の4月くらいに、出てみようと思って富山(英明=レスリング日本代表監督)先生に相談していたんです。レスリングは、プロとアマの区別がないですからね。それで、表には出せなかったんですけど、出場しようと決めていて、そうしたら、KIDも出ると聞いて、"えっ!? お前も出るの!?"という感じで驚きました」と語った宮田。
宮田はプロの世界へ入ってから2年間、ほとんどボクシングと柔術の練習しかしてこなかったという。 「総合格闘技の試合で、僕がテイクダウンされることはあり得ないから」というのが、その理由。そのため、レスリングの練習は封印してきたようだ。だが、昨年の山本“KID”徳郁戦の直前に、「相手が相手だけに、もしかしたらテイクダウンされる可能性もある」ということで、レスリングの練習を再開した。
残念ながらKID戦は不覚をとったが、5歳からやってきたレスリングの力は、まったく衰えていないことが分かったという。そして、骨折したアゴを治すために入院していたときに、他の分野で活躍する人たちと出会い、広い視野で物事が見られるようになったと語る。気軽にレスリングで北京五輪へ挑戦してみようと考えられるようになったのは、こうしたことも背景にあったようだ。
■富山監督「宮田の勝率は8割近くある」
宮田が全日本選手権で出場するのは、フリースタイルの74kg級。本来ならば、66kg級で出場するのがベストウェイトといえるが、マック高野トレーナーの元で、肉体を鍛え直して増量に成功したばかり。ここで絞れば、パワーアップを図ったのが無駄になってしまう。一か八かで、74kgへの挑戦を決めた。
だが、日大での練習を見る限り、他の選手と比較しても、ほぼ互角かそれ以上の力を発揮していたのも事実。日大には、学生チャンピオンの工藤豪己や2位の秋本直樹がいる。彼らとスパーリングをしても、次々とポイントを奪っていった。
富山監督も、「宮田は体の柔らかさがある。タックルのスピードもあるし、足技がうまい。プレッシャーもないし、山本(KID)よりかも取れる可能性はあるかもしれません。8割近くは可能性があるんじゃないですか」と絶賛した。教え子だからとはいえ、勝負師の目は確かだろう。
■あくまでもHERO'Sが優先
気になるのは、HERO'Sとレスリングの両立。KIDがレスリングに専念することを宣言しただけに、宮田もその可能性があるのだろうか。 「僕は、できるだけHERO'Sを優先したいと考えています。もしも世界選手権とHERO'Sの試合がかぶったら、レスリングを選ぶことがあるかもしれませんけど、そのときは谷川さんと相談して決めていきます。今もレスリングの練習は週3回。あとは、総合格闘技の練習です。レスリングを簡単に考えているわけではなく、これは富山先生と話し合って決めたこと。何十年もやってきたことですから、感覚を取り戻すのに週3回あれば十分ということです」
そんな宮田が目指すのは、もちろん北京五輪出場とHERO'Sミドル級の頂点だ。しかし宮田は、「ベルトとかそういうものではなく、とにかくいい試合をしたいだけです。レスリングは勝って当たり前だと思われていて、あまり攻められずにいて、つまらなかった。だから、どんどん攻めていきたい。HERO'Sも、ようやく寝技も打撃も覚えてきたので、いい試合、攻める試合をしたいですね。それを出せば、結果はついてくると思いますから」と、強気でいくことを宣言した。
勝利に縛られていた天才が自由を手に入れ、大きなものを追い求めている。その先にあるのは、金メダルかHERO'Sのベルトか。それともその両方になるのか、今年の宮田の試合に注目だ!!■
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HERO'Sとレスリングの両方での活躍が期待されている宮田。みんなも応援しよう!  「まだ試合をやってみないと分からない。でも、思い切って勝負します」と宮田は、レスリング全日本選手権での健闘を誓った

宮田の恩師でもある、レスリング日本代表の富山英明監督。愛弟子の成長には目を細めていた

レスリングのスパーリングで汗を流す宮田。素早いタックルでポイントを奪っていった 
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