満足のいく状態が整えば、試合をする

──今回の来日はいつ以来になりますか?
ヒクソン 昨年の初頭に来て以来の来日になる。その時はまったくのプライベートな観光で京都に行ったんだ。いろんな寺院を見て回ったが、どこもとても素晴らしく美しかったよ。
──元々、日本の寺院などに興味があったんですか?
ヒクソン 寺院に限らず、日本の文化全体に非常に興味があるんだ。
──1年半ぶりの日本はいかがですか?
ヒクソン グレート! いつ来ても日本は素晴らしい。
──現在の生活の拠点はロスですか?
ヒクソン ビジネスの拠点はアメリカだが、今、実際に住んでいるのはブラジルだ。やっぱりブラジルの気候は私に合っている。ブラジルに帰るととてもリフレッシュができ、エネルギーが充電されている気分になるんだ。
──ヒクソン・グレイシー・アカデミーはアメリカにあるんですよね?
ヒクソン そう、アカデミーはアメリカにある。アカデミーは、柔術の黒帯を持っているスタッフや私の息子たちが中心となって教えているんだ。ブラジルではスクールは作っていなくて、あくまで私自身が、いつになるか分からないが、次の試合に向けてのトレーニングをしているんだ。
──なるほど。「次の試合」についてのお話は後ほどお聞きするとして、現在の一日のスケジュールを教えていただけますか。
ヒクソン 基本は早寝早起きの生活リズムだよ。朝起きて、ビーチに行ってサーフィンをしたり、ハイキングをしたり、またウェイトトレーニングなどをして午前中を過ごすんだ。午後からは柔術の練習をしている。
──今回、弟子のケビン・ケーシー選手がHERO'Sに出場しますが、今後、ケーシー選手以外にもHERO'Sのリングに上げてみたいと思うヒクソン・グレイシー・アカデミーの選手はいますか?
ヒクソン そもそも私のアカデミーは、プロの格闘家になるためのスキルを教えているわけではないんだ。あくまで人間的な成長。精神的に強くなるために柔術を教えている。もちろんたくさん生徒がいるので、その中にはプロとして闘ってみたいという希望を持っている人間もいる。だから彼らの希望が叶うような状態になれば、何人かHERO'Sに参戦することになるかもしれない。
──現在、アメリカを中心として総合格闘技が世界的なブームとなっていますが、これについてはどのように思っていますか? 
ヒクソン UFCの目覚ましい成長というのは分かっているし、PR的にも非常に成功しているのではないかと思う。そしてここ最近は、アメリカだけではなく、世界規模でたくさんの総合のイベントが行われている。さらに、実力のあるプロモーターが新しく総合格闘技のイベントを行いたいと考えている動きもある。私の個人的な意見だが、この総合格闘技の人気というのは一過性のものではなく、しばらく続いていくと思う。
──そもそも総合格闘技というものを世に知らしめたのは、他ならぬグレイシー一族だと思うのですが、ここにきてグレイシーがシーンの第一線から後退していることに関してはどう思っていますか?
ヒクソン いや、決してグレイシーが後退しているわけではない。何の格闘技をベースとして総合で活躍をしていくのかは、ファイターによってそれぞれ違いがある。しかし私は、ファイターが「総合で活躍をしていきたい」「強くなっていきたい」と思うのであれば、グレイシー柔術を学んでいく必要があると思っている。グレイシー柔術のテクニックを直接学ぶというというわけではなく、学んだテクニックをどのように総合の闘いに転化させて、うまく使っていくかというのが大事になると思うんだ。確かに、以前と比べてグレイシー柔術を学んできたファイターたちはいい結果を残せていない。しかし、それはあくまで後退ではなく、一時的な状況と認識している。
──他の国のファンと比べてみて、日本の格闘技ファンはグレイシー柔術が好きな傾向にあります。やはりヒクソン選手にはまだまだ試合をしてほしいという声が多いんです。
ヒクソン 次の試合はいつになるという確約はここではできないが、私としてはいつかまた試合をしたいと思っている。必ず試合は実現すると思っているよ。ただ、試合をするにあたって、単純に日本のファンを喜ばせたいから試合をする、というわけではない。自分自身のために試合をするんだ。満足のいく状態が整えば、試合をすると思うよ。


最近つまらない試合が多い

──FEGの主催するHERO'SやDynamite!!といったイベントの印象を教えてください。
ヒクソン 非常に規模の大きい人気のあるイベントだと思う。素晴らしいファイターがたくさん参戦している大会だということも知っている。だから、なんらかの形で私もFEG主催の大会に参加できればと思っているよ。
──今年6月の『Dynamite!! USA』で行われた桜庭和志vsホイス・グレイシー戦はご覧になりましたか?
ヒクソン イエス。あの試合は非常に残念な試合だった。2人とも勝敗に執着していなかったというか、一生懸命試合をしようとか、技術をどんどん見せていこうとか、そういう気持ちがまったく見られなかったし、とりあえず時間が過ぎるのを待って最終的にジャッジに判定を委ねる、という感じの試合だった。そのような感想を持っている。
──以前と比べて総合のルール、特にアメリカのイベントだと寝技のテクニックを披露することが難しい状況になっていると思います。
ヒクソン 確かに、最近つまらない試合が多い。その要因として、ルールになんらかの理由があるのかもしれない。やはり、どうしても衝撃的なKO勝利などを多く見られるようにルールが改善されているように思う。テクニックを見せるためには時間、プロセスが必要なのだが、最近はちょっと膠着状態になると、すぐにレフェリーが「動け! 動け!」と急かしたりする。そういった状況の中では、なかなかテクニックは出しにくいものだ。ただ、もちろんそれだけが問題なのではない。どのくらいファイターが自分の持っている実力のすべてを出したいと思っているのかという、気持ちの問題もある。それによって試合の内容は大きく違ってくる。一番よくないのは、負けることにだけ気を取られ過ぎて、自分の実力を出さずに50%くらいの状態に甘んじたり、力を振り絞ればもう一発パンチや蹴りを出すことができるのに出さないことだ。
──FEGの谷川代表が、現在あなたと試合の実現について前向きな話ができているとコメントしているのですが、ぜひいいお返事を期待しています(笑)。
ヒクソン では逆にミスター・タニカワにお願いをしたいのだが、私が「はい」とOKできるような内容のお話(オファー)を持ってきてほしい(笑)。
──ちなみに、谷川代表の印象というのは?
ヒクソン プロモーターとして非常に能力のある人だと思っている。総合格闘技を広めるために一生懸命努力をされているし、エンターテインメント性というものも非常に考慮しながらファンが納得するようなマッチメイク実現に頑張っていると思う。


敢えて一人、名前を挙げるとすれば、サクラバ

──ヒクソン選手がかつて高田延彦氏や船木誠勝選手という日本を代表するプロレスラーを連破したことで、日本のプロレス界が危機的状況に陥って久しいわけですが、またプロレスラーと闘ってもいいという気持ちはありますか? 例えば、ミノワマン選手などはとてもあなたと闘いたがっています。
ヒクソン 相手がプロレスラーだから試合をするしないというわけではなく、あくまで対戦相手はプロモーターが決めること。自分は選ぶ立場にない。ただ、プロモーターが決めることであるといっても、またファイトマネーがいいからといっても、私は誰とでも闘うというわけではない。例えば、「みんなが観たがっているので、こんな芸能人やムービースターと試合をしてほしい」と言われて多額なギャラを積まれても、やっぱり試合はしないだろう。やはり私は試合をするにあたって一番大事にしているのは、お金ではなく、その試合をする意味合いなんだ。どういう意味でこの試合をしなければいけないのかということを大切にしている。だから、お金を積まれたからと言って、誰とでも試合をするわけではない。今、名前の出たミノワサンに関して言うなら、今回弟子のケビンが試合をするわけだが、ケビンはかなり手こずるだろう(※このインタビューは9・17HERO'S横浜大会開催前に収録されました)。ケビンにとっては大変な試合になると思っている。
──HERO'Sのファイターでグッドファイターだと思う選手はいますか?
ヒクソン 特にこの選手と名前を挙げることは難しいが、全体的に見てHERO'Sは非常にレベルの高いファイターが揃っていると思う。そこで敢えて一人、名前を挙げるとすれば、サクラバ。彼とは将来的に試合をするのかもしれない。私が闘ってみたいと思う選手の一人なのかもしれない。
──桜庭選手のどこが素晴らしいと感じていますか?
ヒクソン 彼は過去に我がグレイシーファミリーと試合をして、勝ち越している。このことが非常に興味深い。
──もし実現するのなら、ヒクソン選手と桜庭選手の試合はぜひ観てみたいです。最後に日本のファンの皆さんにメッセージをお願いします。
ヒクソン 今回、このような形で日本に来ることができて非常に嬉しく思っています。近い将来、なんらかの形で自分の強靭なスピリットを皆さんにお見せして、自分が感じているグッドバイブレーションを皆さんと一緒に共有する機会があればと思っています。サンキュー、ベリーマッチ!■


愛弟子ケビン・ケーシーのセコンドとして来日したヒクソン・グレイシー


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「試合をするにあたって一番大事にしているのは、お金ではなく、その試合をする意味合い」。闘って意味のある相手とは、果たして……!?

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横浜大会前日に行われた公開直前記者会見にもサプライズゲストとして登場したヒクソン

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「私が次にこのリングに上がる時は、私自身の闘う精神を存分に発揮するために、このリングに登りたいと思います」。横浜大会の休憩明けにリングに上がり挨拶を行った
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FEGとの交渉は成立するのか? そして、桜庭との対戦は……!?

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